桐子厄介です 霧の旗

霧の旗

もう私の体は切っても血が出ない!

制作年 1965年
制作国 日本
監督 山田洋次
脚本 橋本忍
原作 松本清張
上映時間 111分
出演
倍賞千恵子
滝沢修
新珠三千代

だいたいのあらすじ

熊本のタイピスト柳田桐子(倍賞千恵子)は列車を乗り継いではるばる東京までやって来ました。
彼女の兄である正夫(露口茂)は殺人事件の容疑者となってしまったので、同郷の高名な弁護士・大塚欽三(滝沢修)に弁護を依頼しに来たのでした。
大塚は多忙であり、桐子が80万円の弁護料は払えないと聞いて依頼を断るつもりではあったのですが、遠路から来たので面会はすることにしました。
桐子は早速事件の内容を切り出そうとしたのですが、大塚は「九州にも良い弁護士がいるからそちらに相談しなさい」と聞かずに断ります。
そして「私は値段の割には大した弁護士では無いし、九州に出張も無理だ」と理由を説明しました。
仕方なく桐子は「分りました」と引き揚げたのですが、帰り際に「兄は死刑になるかもしれません」と言い残しました。
大塚の言うことは尤もで非はないと思います。

桐子は諦めきれずに駅でもう一度大塚の事務所に電話したのですが、「先生は川奈に出張」と切られてしまいます。
その頃、大塚は愛人の河野径子(新珠三千代)とゴルフを楽しんでいました。
17時に大塚から連絡が来ると事務員の奥村(桑山正一)から聞いたので、再度連絡した桐子でしたが、やはり依頼は断られたので、「80万円のお金が用意できない貧乏人は死ねということですね」的な捨て台詞を吐いて切りました。

そんな桐子の話を立ち聞きしていた論争社の編集者阿部(近藤洋介)は彼女に接触して喫茶店で話を聞くことにします。
桐子は彼の名刺は受け取ったものの夜行で帰らないと翌日の勤めに間に合わないため、聞かれた郷里だけ答えて名乗りもせずに席を立ちました。

事件に興味を持った阿部は地方紙を隅から隅まで調べ、熊本で金貸しの老婆が強盗殺人に遭うという記事を発見しました。
容疑者の柳田正夫は小学校教員だったのですが、修学旅行費用を落とした際に老婆からお金を借りていました。
正夫は遺体の第一発見者であり、現場から借用書が消えていたため、警察では督促を逆恨みしての犯行と見て取り調べ、彼は強要されたのか一時は自供したものの、現在では容疑を否認しているということです。
阿部は事件を調べてみたかったのですが、編集長に却下されました。

1年後、大塚の事務所に桐子からハガキが届いたのですが、そこには正夫が1審で死刑判決を受け、2審を控訴中に拘置所で病死したと書かれていました。
また、国選弁護士は裁判の際に情状酌量しか申し立て無かったので正夫は「強盗殺人犯」として死んだということも書かれていました。
大塚は「逆恨みかよ」的なことを奥村にこぼして「全くです」と同意されていたのですが、やや後味が悪かったのか事件のことを調べることにしました。
殺害現場写真がリアルでビックリしました。
裁判記録を読み始めた大塚は正夫が老婆の死体を発見した際にズボンに血を着けてしまったので屋根裏に隠していたこと等を読み進めました。

桐子と正夫は二人暮らしで事件があった夜も正夫は普段と変わらない様子で、夕食後に桐子に妻のように見送られて外出していました。
しかし裁判で桐子が主張できるのは「兄は自分のことを思っているので、自分を殺人鬼の妹にするのはあり得ない」ということだけでした。
家を出た正夫は老婆の家に行き、返済をもう少し待ってもらえるように依頼しようと考えていました。
そこで灯りが点いている玄関で呼びかけたのですが、返答が無かったので更に呼び掛けつつ家に上がり込みました。
彼は囲炉裏の傍でうつ伏せに倒れている老婆を仰向けに起こしたのですが、彼女は頭から血を流しており、一見して死亡しているようでした。
まずいことに正夫は保身に走ってしまい、その場で通報はしませんでした。

また、正夫は警察の自供に応じたのは取り調べが厳しかったためと供述しましたが、担当刑事はこれを否定しています。
弁護士は正夫の容疑は否定せず、「彼の犯した罪は許されるものではないが、被害者が悪徳な金貸しであったので、誰でも追い詰められて犯行に及ぶ機会はある」と求めただけでした。

何日も掛け、時には径子との逢瀬がおろそかになりながらもようやく大塚は事件記録を読み上げ、「これは自分が担当しても無罪を勝ち取ることは不可能」という結論に達しました。
ということでスッキリした大塚は径子とレストランに行って寛いでいたのですが、他の家族連れを見ていた大塚は正夫の事件についてある点に気付いてしまいました。
老婆の顔前部の傷は右側についており、荒らされた現場の箪笥も右側より左側が大きく空いていたので、犯人は左利きの筈でした。
しかし正夫が右利きであるかどうかは今さら確かめようがなく、後の祭りだと大塚は諦めることにしました。
これ本来であれば警察が気付くべきポイントで、桐子が恨むのであれば熊本県警ですよね。

ある晩、阿部は同僚に連れられて銀座のバー「海草」に行き、そこでホステスとして勤務している桐子と再会しました。
阿部は実は以前桐子に手紙を出しており、どうしても話が聞きたいと電話したのですが、「困ります」と切られてしまいました。
その後、阿部は店が終わった後に桐子に接近して大塚に依頼した件などを聞き出しました。
そして阿部は大塚を訪問して周囲を調べ、彼がこの事件の記録を取り寄せて調べていた件を知り、桐子に知らせました。
これ、絶対阿部が余計なことしたと思います。
桐子は大塚が事件のことを調べながらも阿部にはその件を知らせ無かった点を不審に思います。

径子は「みなせ」というフランス料理店を経営しているのですが、そこのチーフである杉田(川津祐介)は彼女に横恋慕しており、大塚のことをねたんでいました。
ある晩、杉田は泥酔して海草に現れて桐子に大塚の事務所に電話をさせようとしました。
そして杉田から元プロ野球選手でサウスポーだという山上(河原崎次郎)なる怪しげな人物を紹介されました。
その後、桐子は阿部に会い、杉田の件を聞いてみなせのことを知ります。
そしてみなせは径子が浮気した夫と離婚する際に慰謝料としてもらった件、その時から大塚が顧問弁護士である件を聞きました。

また、桐子が東京で居候している同僚の信子(市原悦子)は杉田に想いを寄せていたのですが、彼には他に女がいると判断していました。
松本清張作品って人間の絡み方が本当に面白いですよね。
信子は桐子にみなせの前で杉田を見張り、尾行して結果を知らせてくれと依頼しました。
そこで桐子はひたすらみなせの前で張っていたのですが、その際にやけに山上から声を掛けられました。
山上羽振りよさそうですよね。

その後、杉田は電車に乗って帰宅し、自宅のような建物に入って行ったのですが、入れ替わりに家からは助成が飛び出して来ました。
桐子は民家から流れてくるピアノの音に釣られ、その女性は見失ってしまったのですが、その後タクシーから一人の女性が降りてきて杉田の家に入って行きました。
門の所から桐子が覗き込んでいると、中から径子が飛び出してきて「あたしがやったんじゃないんです。証人になってください」と頼まれ、家の中へと引き込まれました。
家の中ではこたつの横の血だまりになった杉田が倒れていました。
これは径子の言うことに誤り無いと思います。
というのは径子が家に入ってから数十秒しか経過しておらず、大きな物音もしませんでした。
杉田の死因は刺殺か撲殺だと思われるので、この数十秒で径子が殺人を犯すのは難しいと思われるので、先ほど出て来た女が真犯人なのでしょう。

「お願いだから証人になってくれ」と懇願する径子の言うことに頷きながらも彼女の名前を聞いた桐子は「この女が河野径子だったのか」と知りました。
桐子も自己紹介をして源氏名も教えましたが、径子は「早く出ましょう」と急かし、一人でタクシーを拾って引き揚げました。

感想

これはなかなか面白いです。モノクロ映画です。
弁護士に依頼断られた女性が復讐しようとするという内容です。
非常によく練られているようで、絡み合う人間模様にしびれます。
そうは言ってもやっぱり古い映画なので、スマホとかレコーダーとか発達してる現在だと桐子がのさばるのは難しいですよね。
長めのランニングタイムですが、展開が面白いのでサクッと観られます。
恐らく原作小説よりは少ないでしょうけど、大塚がいるお陰で推理小説を読み進めていくような展開もあり素敵です。

ハッキリ言って桐子はかなりヤバい人で、かなりのモンスタークレーマーだと思います。
確かに大塚は不倫してるかもしれませんが、そんなの夫婦間やイメージの問題であって業務とは殆ど関係ないと思います。
ましてや今回彼は弁護を受けてテキトーなことをしたわけではなく、丁寧に断ってます。
彼女が怒りを向けるとすればいい加減な捜査をしている警察や、国選弁護人だと思います。

ハガキを送ってくる時点で相当なものだったのですが、これはいたちの最後っ屁的なものだった気がします。
大塚が調べなければこんなことにはなってなかったのと、阿部が余計なことしなければよかった気がします。
色んな出来事が絡み合ってこのようなことになってるのが非常に面白いです。
キチガ〇に刃物とはこのことなのかなという感じです。
恐らくゲスな連中を見慣れているはずの阿部にもドン引きされててウケました。

たまに明るい音楽も流れるのですが、全体的に寒々とした映像も素敵です。
「あーこの人はこの人のこと好きなんだな。」とか「なんか関係ありそうだな」とか映像で見せてくれる点もいいですよね。
後半の桐子と径子の証言を交互に入れてる部分も絶妙で対比が素晴らしいと思いました。
あと中盤の杉田の殺害現場付近の霧のシーンもいい雰囲気でした。

キャストも合っている気がして、大塚は完全に弁護士にしか見えませんでした。
お金持ちっぽさもよく出ていてどう見てもいい人そうです。
謙遜してるんですけどなかなか優秀で仕事には真面目な所がまたなんとも。
妻との仲は冷え切っているようで、奥さんギスギスしてました。

桐子も佇まいが素敵で、列車で移動したり、竹橋辺りを歩いているだけで訳あり感出せる所が素敵です。
あんなに薄幸そうなのに後半は水商売長いですって感じになったり、裁判に出て誘導尋問されてた所為か駆け引きもうまくなってました。
彼女自身が裁判中に「あっ」と気づくようなシーンがあったりしてその辺が成長の秘密でしょうか。

径子もメロドラマっぽいザ・他力本願という感じがいい感じでした。
後半の右往左往している感じが実に良かったです。

たまにはこういう真面目な映画も面白いですね。
とっても楽しめました。

ラストまでのあらすじ

現場に一人で戻った桐子は径子が慌てて忘れて行った片方の手袋を拾い上げ、わざわざ血溜りの中に落として代わりに血まみれのライターを拾い上げました。
その後、海草に顔を出した桐子は信子に「杉田を見失ってしまった」と報告しました。

そして杉田の家を借りていたのは径子であり、元々二人は愛人関係にあったのだということが判明し、径子は容疑者としてマークされます。
径子は桐子の件を警察に告げたのですが、、桐子は「そんな人は知らないし、そんな場所には行ったことも無い」と強く否定しました。
とうとう大塚との愛人関係も明るみに出てしまい、警察では圭子が大塚と関係を持ち、邪魔になった杉田を殺害という動機を導き出しました。
大塚の事務所では連日電話が鳴りやまず、記者も押しかけることとなりました。

島田検事(内藤武敏)は流石に二人の証言に疑問を感じ、桐子に「嘘吐くと偽証罪」と告げ「なんで径子があんたの名前を知ってるんだ」とツッコんだのですが、桐子は「杉田が店の常連だったので自分の名前は知っていた。」と返答しました。
尚、桐子は海草を辞めて巣鴨のスナックに在籍していたので、阿部はその店を訪ねると桐子は今までに無かった笑顔で出迎えてくれました。
阿部は薄々桐子の証言の件を気付いていたのか、店が明けた後に桐子に「大塚も社会的に抹殺されるだろうから君の復讐は叶ったのでは」と言いました。
しかし桐子は「復讐」に関しては「どういうことかしら?」ととぼけたものの「大塚はいつかは復活するけど、私の兄はこれからもずっと殺人犯」と不十分であると告げるのでした。

実は阿部は大塚に依頼されて桐子の説得にあたっていたのですが、失敗に終わりました。
そして彼は「彼女の気持ちと動機は分からなくもないが、やってることが余りにも…」ともう関わりたくない旨を大塚に伝えます。
私も同感です。
大塚は桐子の店に顔を出し、一人の男ではなく弁護士として証言を依頼するのですが、「真実を語って欲しい」と言えば「私は過去に真実を語っている」とかわされ、「真犯人の検討はついている」と言えば「じゃあそちらを当たっては」とことごとく断られるのでした。
現場にあったライターは犯人のものらしかったので、「ライターを提出して欲しい」と懇願しても「あたしは持ってません」の一点張りでした。

何度も何度も店に通って説得を続ける大塚でしたが、恐ろしいことに桐子は笑顔で大塚を出迎え、常連客のように接待するのでした。
普通に可愛いのが怖いです。
ある晩、大塚はとうとう「あなたの兄さんが左利きでなければ、老婆殺しの犯人は山上で、同時期に帰郷していていた杉田も噛んでいた可能性がある」と告げてしまいました。
また杉田殺しの犯人もライターから山神であると大塚は睨んでおり、「兄さんの無実も証明するし、真犯人を捕らえることができる」とライターの提出を懇願します。
しかし桐子は「兄は死んでて径子は生きてるから不公平」的なことを言って断るのでした。

ある晩、とうとう大塚は泥まみれの路上で土下座して証言諸々を依頼し、桐子は「証言します。ライターは明日、私のアパートに取りに来てください」と返答しました。
大塚は大喜びで「ありがとう!ありがとう」と何度も礼を言いました。
翌日、大塚は早速、径子の面会に行って「これで解決」と喜び合うのでした。
その夜、大塚はライターを受け取りに桐子のアパートを訪ねたのですが、桐子は彼にお酒を飲ませ、「本当は好きだったから意地悪したの」と
抱き着いて彼を誘惑しました。

その後、桐子は「大塚からしつこく偽証を迫られている。とうとう自宅まで来てレイプされた」と訴えました。
桐子は医者に行って「処女膜裂傷」の診断を受けており、膣からは精液も検出されていました。
島田は大塚を呼び出してその件を伝え「偽証強要の件が明るみに出ない内に事件からは手を引き、弁護士からは引退した方がいい」と便宜を図りました。
大塚は力なくそれを受け入れるしかありませんでした。

その後、桐子は船に乗り、あのライターを海に投げ入れていました。

終マークで終了です。

もう真犯人とか関係なくなってますよね。
タイトルの「霧の旗」という意味が分からず、劇中では大塚が「霧は崩れる時に音を立てる」という台詞がありました。
もしかしたら「旗」というのは大塚の名声か何かで彼はそれが崩れる音を聞いたのかもしれません。
もう一つは桐子が杉田の殺人現場を目撃した際に深い霧が出ており、径子と出会っている際に心の中の何かが崩れたのかなあとも思いました。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする