張込み
犯人追って出張したらひどい目に遭う話
制作年 | 1957年 |
制作国 | 日本 |
監督 | 野村芳太郎 |
脚本 | 橋本忍 |
原作 | 松本清張 |
上映時間 | 116分 |
出演 |
大木実 |
宮口精二 |
高峰秀子 |
だいたいのあらすじ
警視庁の柚木(大木実)と下岡(宮口精二)の二人の刑事は横浜から夜行の急行に乗り、ぎゅうぎゅうの車内の通路に座って九州に向かいました。
当時の旅は大変だったようで、目的の佐賀駅に到着したのは翌日の深夜でした。
翌日は佐賀県警に顔を出していざという時の協力を取り付け、ターゲットの横川家が監視できる下宿を短期で契約して張込みを開始しました。
柚木は横川家に後妻に入り、ごく普通の主婦として生活している横川さだ子(高峰秀子)を監視しながら事件のことを回想しました。
当時、柚木は下岡の家で晩酌をご相伴しており、下岡の妻(菅井きん)から見合いをせっつかれていました。
そして深川で拳銃強盗があったと呼び出されて現場に向かったのですが、被害者は質屋の経営者で、容疑者の山田(内田良平)が間もなく入谷で逮捕されました。
しかし山田には石井キュウイチという共犯がいることが判明し、その男が拳銃を持って逃走していました。
さて、張込みの現場では2日目に横川家のポストに郵便物が投函されたので、柚木達に緊張が走ります。
さだ子はその場で便せん数枚に及ぶ長文の手紙に目を通して複雑な表情をしており、柚木達はいつでも彼女を尾行できるように準備を始めます。
しかしさ家の奥に引っ込んださだ子はそのまま洗濯物を出して来て庭先に干し始めました。
猛暑の中、出たり入ったりして下岡達も大変です。
石井キョウイチは山口の出身であり、郷里に残した三年前の恋人が横川さだ子でした。
彼はさだ子が横川家に嫁いだことも承知しており、住所等も知っているようでした。
横川家には電話が無く連絡手段は電報か手紙のみなので、柚木達はそこに注力して接触を監視していました。
先ほどの手紙は郵便局からの貯金振り込み依頼だったようで、さだ子は下宿宿の主人(浦辺粂子)に三百円を借りに来て快く承諾されていました。
横川(清水将夫)はさだ子より二十年上の銀行員でお金持ちなのですが、ケチなので都度必要なお金だけをさだ子に渡しており、彼女は自由に使えるお金がありませんでした。
その夕方、決まったように買い物に出かけたさだ子を尾行する柚木は彼女を見ながら「つくづく生気の無い女だ。こんな女に石井が会いに来るだろうか?」と感じていました。
また、毎日変化の無い生活を送っているさだ子を見て柚木には「空振りだったのではないか」と焦りが生じます。
石井は肺病持ちで職場を転々としており、東京にはもういないのではないかと想定されていたので目下の手掛かりはさだ子だけでした。
朝は子供達と夫を決まった時間に送り出し、家事をして夕方は買い物と判で押したような生活を続けるさだ子を見ていた下岡は「まあ焦るな」と柚木を宥めます。
また、宿の女中(山本和子、小田切みき)はいつも宿にいて仕事をしている様子もない柚木達を怪しいと感じ始めます。
4日目、珍しくさだ子が昼間から外出したので、二人は慌てて後を追います。
しかし彼女はバスに乗って法要に出掛けただけで特に何も起きませんでした。
5日目、さだ子は大雨の中傘を差し、横川の傘と長靴を持って銀行に向かいました。
しかし道中で鼻緒が切れたり、銀行を目前にして雨が上がったりと散々な目に遭いました。
6日目、宿の主人の通報で佐賀県警の刑事がやって来たのですが、当然事情は知っていたので怪しい者ではないと説得してもらいました。
その夜は夏祭りで、柚木達は翌日には佐賀を発つ予定でした。
なお、柚木には弓子(高千穂ひづる)という恋人がいるのですが、彼女の家は多額の借金を抱えて弓子も働かねばならず、柚木が結婚を切り出す前に「他の人と付き合ってもいいのよ」と突き放すような態度を取っていました。
そういう訳なので柚木は銭湯の娘(川口のぶ)から迫られたりしていました。
翌日、下岡が警察書に報告に行き、夕方には出発しようということになり、柚木は一人で監視を続けていました。
横川家には傘屋が出入りする位で怪しい点はなかったのですが、さだ子が昼間から外出したので柚木は急いで後を追いました。
珍しくさだ子は賑やかな繁華街に向かい、沢山の人込みの中をお祭りの列に紛れ込んだので、あろうことか柚木はさだ子を見失ってしまいました。
感想
これは普通です。モノクロ映画です。
強盗殺人を犯した容疑者を追って刑事が元恋人を監視するために張込みをするという内容です。
ミステリー的なことは全くなく、かと言ってサスペンスみたいな展開も殆ど無いです。
ちょっと後半で軽くハラハラする展開があるかな?って感じで殆どがヒューマンドラマだという。
正直、私が観てピンとくる感じの映画ではないのですが、意外と面白かったです。
ちょっとランニングタイム長めなのですが、退屈しなかったです。
なんか悲しい男女の話というか昔の女性は大変です的な内容です。
流石にこの時代になると両親も生まれてないので体験とか聞きようがないですけど、なんか選択肢があまりないというのは伝わりました。
そこが結末付近の柚木の行動に繋がってるみたいです。
それにしても20歳も上のおっさんと結婚してイマイチ大事にされないとかひどいですね。
奥さんに毎日100円とか日雇いかよって感じ、更にこのおじさん「朝顔にはとぎ汁撒け」とか「朝の内から炭炊いとけ」とかいちいち五月蠅いです。
釣った魚とかそういうレベルとも違うみたいで生活が切実な感じしました。
最後の方まで石井の顔が出ないので、当時はそれも当時の売りだったのかな?と思いました。
東京の当時の風景や佐賀の風景などが沢山出てくるので、こういうのは記録映像として希少なんだろうなって思います。
驚いたのは空撮や遠目で自動車を撮影しているシーンがあった点でした。
後半は素敵なシーンが目白押しで、この映画凄くお金かかってそうです。
柚木の焦った感じの表情や後半の人情派っぽい演技が素敵でした。
下岡の慣れた感と近隣住民とすぐ仲良くなる点も味があって、柚木の宥め役っぽい感じとしても機能してました。
さだ子は生気がないと表現されてましたが、何しろ静かというか「はいはい」言うだけの感じです。
ラストまでのあらすじ
柚木はあの傘屋が石井であったのかと勘付き、急いで駅に向かって時刻表を調べ、さだ子達が列車に乗れていないことを確認しました。
しかしその後の調べで見かけない男が一人バスで移動していたと判明します。
柚木は勘を頼りにタクシーでそのバスの方を追いかけることにしました。
空撮があるのにびっくりです。
道中ではダイナマイト工事に巻き込まれて一時停止させられたりと時間をロスしてしまい、柚木は焦ります。
残念ながらバスには追いつけなかったのですが、運転手と乗務員から二人は草刈温泉で下車したと有力情報を得ました。
こっちコースで良かったですね。外れてたら列車で移動されてることも考えられたし。
思ったんですけど、駅で連絡して佐賀県警に協力してもらった方が良かったのでは?
柚木は佐賀県警に連絡して経緯を話し、情報を共有しました。
そして柚木は石井がさだ子と無理心中する可能性もあると踏み、急いで走って草刈り温泉へと向かいました。
付近に到着した柚木は銃声を聞いたのですが、それはハンターが発砲する音でした。
そして聞き込みの結果、とうとう柚木は石井(田村高広)とさだ子が河原に佇むのを発見しました。
柚木が滝の上を歩くシーンがあったのですが、こういうの一般人では無理なんでしょうね。
さだ子は実に活き活きした表情で石井と話しており、火急の危険は無いと判断した柚木は二人を泳がせることにしました。
尚、石井は沖縄に飛んでブルドーザー等の運転を学び、その後東京に戻ると話していました。
その後、またまた二人を見失った柚木でしたが付近の温泉地の叢で発見しました。
さだ子は積極的に石井にキスをして身を寄せており、柚木は彼女の意外な一面を見た気がしました。
彼女は横川家を捨てて駆け落ちすると言い出し、石井は下の旅館で全てを打ち明ると言い出します。
それを物陰で見ていた柚木は二人の吐き出す言葉に胸を打たれていました。
さだ子も傘クルクル回してます。昔の映画だと多いみたい。
もしかして柚木は弓子の姿に三年前のさだ子を重ねたのかもしれないですね。
間もなく二人は温泉旅館へと入って行き、柚木は前で張りこみして下岡や佐賀県警の応援と合流しました。
柚木はさだ子に同情したのか「女は情婦でもなんでもないので、女の措置は自分にまかせてください」と皆に告げました。
そして柚木と下岡は旅館に踏み込み、荷物を調べたのですが、拳銃は発見できませんでした。
やがて石井が風呂から出てきてさだ子を待っていたので、身柄を押さえ、その場で逮捕したのですが、拳銃は大阪で売ったということでした。
そして柚木は戻って来たさだ子に「石井君は警察に来てもらうことになりました。」と簡単に説明し、「奥さんはバスでお帰りなさい。今からならご主人の戻ってくる時間に間に合います」と告げました。
バスの時間はあと15分だったのですが、さだ子は窓から県警の車を見送って泣き崩れたので柚木はすっかりばつが悪くなってしまいます。
柚木は「旅館代はご心配なく、これはバス代です」とお金を渡しました。
そして柚木は「この女は数時間の命を燃やしたに過ぎなかった。今晩からはまたあのケチな夫と先妻の子供達との生活に戻らなければならない。そして明日からはあんな情熱が潜んでいるとは思えない平凡な姿でミシンを踏んでいるだろう」と回想して引き揚げました。
その後、柚木は弓子に「君の家庭に事情があっても一緒に頑張って行こう。」とプロポーズの電報を送りました。
そして護送する石井に「済んだことは仕方がないよ。今日からやり直すんだ」と言いました。
佐賀県警の刑事に見送られて進む柚木達の姿がホーム奥の階段へと向かって小さくなります。
間もなく東京行きの列車がホームへ入って来ました。
エンドロール後に発車した列車をバックに終マークで終了です。
完全に人間ドラマでした。